業界が集まる会合で、精神疾患に罹患した従業員から「原因は会社だ」と訴えられ、対応に困ったという社長の話を聞いた。そこで、精神障害の労災認定の考え方を確認することにした。
今日は、精神障害の労災認定の考え方を知りたいというお話でしたね。
はい。当社で問題が起きているということではありませんが、どのような流れで判断されるのか考え方を知っておきたいと思います。また、未然に防止できることがあれば、気を付けていきたいです。
わかりました。まず、精神障害における労災認定のための要件は以下のとおりです。
- 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
- 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
- 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
要件1の認定基準の対象となる精神障害は、疾病および関連保健問題の国際統計分類第10回改訂版(ICD-10)第X章「精神及び行動の障害」に分類される精神障害(分類コードF0からF9)であって、認知症や頭部外傷などによる障害(F0)およびアルコールや薬物による障害(F1)は除きます。業務に関連して発病する可能性のある精神障害の代表的なものは、うつ病(F3)や急性ストレス反応(F4)などとされています。
まずは認定基準の対象となる精神障害であるかどうかを確認するということですね。
次に、発病前おおむね6ヶ月の間に起きた業務による出来事について、業務による強い心理的負荷が認められるかどうかを確認します。「業務による心理的負荷評価表」というものがあり、「強」と評価された場合は要件の2を満たすことになります。
発病前の6ヶ月をみるということですね。
はい。注意点として、ハラスメントやいじめのように出来事が繰り返されるものは、発病の6ヶ月よりも前に始まり、発病まで継続していたときは、始まった時点から心理的負荷を評価することになっています。
なるほど。内容によっては6ヶ月よりも前をみることがあるのですね。
カスタマーハラスメントについても、労災の認定基準に追加されたということを耳にしましたが、これはどのようなことでしょうか?
2023年9月から労災の認定基準が改正され、「業務による心理的負荷評価表」の中に、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」という項目(いわゆるカスタマーハラスメント)が追加されています。この項目について、心理的負荷の強度が「強」と判断される具体例としては、例えば以下の内容があります。
- 顧客等から、人格や人間性を否定するような言動を反復・継続するなどして執拗に受けた。
- 顧客等から、威圧的な言動などその態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える著しい迷惑行為を、反復・継続するなどして執拗に受けた。
- 心理的負荷としては「中」程度の迷惑行為を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社が迷惑行為を把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった。
当然のことですが、会社として対応が必要であれば、すぐに対応・改善していくことが求められますね。
そうですね。実務上は非常に重要な点になります。最後に業務以外の心理的負荷による発病かどうか、個体側要因による発病かどうかを検討し、「業務以外の心理的負荷評価表」を用いるなどして、心理的負荷の強度を評価します。
「業務以外の心理的負荷評価表」の強度Vに該当する出来事がなく、かつ、顕著な個体側要因がないということであれば、労災認定になるという流れになります。
要件の1から順に確認していくということですね。考え方が一通りわかりました。
会社としては、業務による強い心理的負荷がかからないように、労務管理をしていくことが求められますね。
今回の労災の認定基準の改正により、「発病後の悪化」の取り扱いが見直されたり、「症状安定後の新たな発病」の取り扱いが追加されたりしています。厚生労働省発行のリーフレット「精神障害の労災認定」では、この内容も盛り込まれていることから、一度目を通しておくとよいでしょう。
■参考リンク
厚生労働省「精神障害の労災認定」